幻想はこうやって少しずつ現実に近づいていくのですね

「たとえばさー、夜電話するじゃん。それで、いざ電話を切るって段階になって、よくある話みたいに、『……まだ切ってないの?』『うん』『早く切りなよ』『そっちこそ』『じゃあ、せーの、で一緒に切ろうね』『わかった』『『せーのっ』』『……なんで切らないの』『だって……』みたいなことしたりすんの?」

「しないよww」

「えっ、しないんだ。遠距離恋愛が始まった頃にはやったりしなかったの?」

「うん、してないよ」

「毎晩電話で話すもんじゃないの?」

「電話は……、毎日はしないかな。メールはするけど」

「ふーん。じゃあさじゃあさ、『ほら、窓の外を見てみてよ。月がすっごく綺麗』って電話かけて、同じ月を見てる、的なことは?」

「ないわww」

「えーっ、なにそれ。お前らバカップルなんじゃなかったっけ」

「実際に会えば、ね」

「じゃあ、『ほらっ、あーん』『あーん』『おいしい?』みたいなことはやんの?」

「いや、そこまではしないけど」

「なんだよそれ。つまんねーよ俺の幻想完全にぶち壊されたよどうしてくれんの?」

「どうしてくれんの?って言われたって、ねぇ」

「夜に突然会いたくなって、夜行バスに乗って彼女の元に行ったりとかは?」

「いや、彼女実家暮らしだから、それはちょっと難しいかな」

「あー。イチャイチャできないもんね。それじゃ、彼女にこっち来てもらうしかないわけだ」

「うん、そだね」

「なんかつまんねーなー。もう遠距離恋愛三年目だろ。なんかねーの?」

「なんかなんて言われても……」

「いや、やっぱいい。なんかイラッとしそうだからやめとくわ」