授業中に暇だったからノートに書いていた何か

「好きって、幸せなことなのかな」
「小さな幸せをたくさん集めたら、大きな悲しみにも、負けないでいれらるのかな」
「小学校のとき、国語の教科書に『スイミー』って話があったじゃん。あの挿絵がね、すごく印象に残ってて」
「たくさんの好きを集めたら、きっと、たくさん幸せだよね」
「たくさん幸せならさ、わたし、きっと、強く生きていけると思うんだ」
「そう思ったから、今日の授業中にね、わたしの好きなものをぜんぶ、ノートに書き出してみようと思って」
「それでね、6時間目の間、ずーっとシャーペンを持って、ノートに向かい合ってたの」
「最初はね、書きはじめたときは、すらすらと書けた」
「お父さん、お母さん、お兄ちゃん、大切な友だちたち、好きな食べもの、好きな本、好きなテレビ番組」
「ノートがどんどん埋まっていったんだ」
「けど、だんだんとね、だんだんと、ペンが進まなくなってきちゃって」
「好きなものひとつ思い浮かべるのに、たくさんの時間がかかるようになって」
「はじめは楽しかったのに、楽しくなくなってきちゃって」
「ねぇ、好き、ってなんなのかな」
「わたしは今書いたこれを、本当に好きなのかなって」
「本当は好きでもなんでもないのに、書くことがなくなってきちゃったから、思いつかなくなっちゃったから、これを書いんたんじゃないのかな」
「そんな風に思えてきちゃって、そう思って今まで書いたのを見ると、なんでこれを書いたんだろうって思うのがたくさんあって」
「気がついたら、涙が流れてた」
「わたしが好きだって思って書いたものが、わたしが本当に好きなものじゃなくって」
「たくさんの好きが溢れてきて幸せだったのに」
「急にわたしの世界から、好きがなくなっちゃって」
「わたしが今まで集めてきた好きが、幸せが、偽物のように感じて」
「どうしたらいいのかわかんなくなっちゃって」
「とにかく、好きをひとつひとつ確認したかったんだけど、今は授業中で、だからそんなことできなくって」
「隣の席の子がね、泣いてるわたしを見て、ちょっと驚いたみたいに『どうしたの?大丈夫?』って心配してくれたんだけど」
「こんなことをその子に話せないから、ハンカチで目を拭って、笑って誤魔化して……」
「わたし、どうしたらいいのかな」
「わたしの本当の好きは、どこに行っちゃったのかな」
「わたしの幸せは、どこにあるのかな」
「好きってなに。幸せってなんなのかな」
「ねぇ、教えてよ」